2022年5月8日
西島手漉き和紙の絵本になりました。
昔々、甲斐の國じゃ養蚕がさかんで、女正月(一月十四日)にゃオカイコさんをうやまい花だんごの繭玉を飾ることになていた。
西嶋村は紙漉き村で繭玉も紙で作る家もたんとあった。村の薮下にオッカと5人の息子らが住んていた。びんぼうだった。
オットウは若く亡くなり女手一つで幼い子らを育てるのは大変だった。けどオッカは紙漉きじゃ評判の力持ちだ。
冬は紙漉き、夏は山の畑で暮らしてた。
ある日、オッカは一人で山へミツマタの下草を刈りに行った。
帰り道、白い蛇と黒い蛇がオッカの行く手をふさいだ。
カマッ首を上げてオッカに向かって白い蛇は言った「おらたちのオッカが死んじまう」黒い蛇が「オッカ、おらたちのオッカを助けてくれろ」と頼んできた。
これには胆の座ったオッカもぶったまげた。でもそん時オッカはわが子の顔が浮かんでしまった。
「お前らのオッカ助けてやらー」と言って2匹の蛇についていくと山頂の足平(あしんてえら)の池のとこまで来た、カヤ原のなか大蛇がうごめいていた。
どうやら喉の奥に鹿の角を詰まらせている。
「早く助けてくりょ」必死に訴える2匹の仔蛇だが、オッカは二間も三間もある大蛇に腰が抜けそうだった。
意を決して近づいていこうとするが膝がガクガクで歩けない。
何とか這って大蛇のとこまで行き「ナムサン」と大声をあげ大蛇の大きな口の中へ飛び込み力いっぱい鹿の角を引っこ抜いた。
拍子に池ん中まで転げてった。大蛇と白と黒の蛇がが藪の中にササと入っていく時に「人間のオッカ、ありがとよ。恩は忘れぬ」と確かに聞いた。
何とか家にたどり着き息子らにその話をしたがにわかに信じなかった、だがオッカの震える手にはシッカリと鹿の角が握り閉められていた。
~つづく~